世界遺産 前鬼山/鬼の子孫が潜む聖地・役行者・前鬼と後鬼・小仲坊・アクセス情報!

 奈良県下北山村前鬼(ぜんき)。深山幽谷のこの「聖地」には、修験道の開祖、役行者ゆかりの鬼が潜むという伝説の地です。この「前鬼」は、「大峯奥駆道(おおみねおくがけみち)」第29番靡(なびき:神仏が宿るとされる聖なる遥拝所、修行場)「前鬼山」として、古来から修行者が訪れる「聖地」で、「世界遺産」にも登録されています。

役行者(えんのぎょうじゃ)~希代の修行者

役行者石像(前鬼・後鬼)
役行者石像(前鬼・後鬼)

 役行者の初出は、「丁丑(ひのとうし)、役君小角(えんのきみをづの)伊豆に流される。~中略~『小角能く鬼神を役使して、水を汲み薪を採をしむ。若し命を用いずは、即ち呪を以て縛る』といふ。」(『続日本紀(巻一)』第四十二代文武天皇三年五月二十四日)とあります。文武天皇三年五月二十四日を西暦に換算すると、699年7月1日となり、主に飛鳥時代後期(白鳳時代)に、活躍された方となります。生没年は不明ですが、舒明天皇6年(634年)伝 ~大宝元年6月7日(701年7月16日)伝とされ、68歳で箕面の天上ケ岳で昇天されています。その後、江戸時代の光格天皇より、「神変大菩薩(じんべんだいぼさつ)」の諡号(しごう)が授けられました。

 正式な記録は、この『続日本紀』(平安時代編纂)だけとなっていますが、奈良時代の『日本国現法善悪霊異記』(にほんこくげんほうぜんあくりょういき)をはじめとして、平安時代の『大峯縁起』、鎌倉時代の『元亨釈書』(げんこうしゃくしょ)、室町時代の『修験修要秘訣集』、江戸時代の『役君形成記』(えんくんけいいせいき)、現代でも小説『役小角』(黒須 紀一郎)や漫画『峠鬼』(鶴淵けんじ)、ゲーム『真女神転生シリーズ』のサブ・キャラクターとなるなど、その伝説的エピソードは、各時代を通じて、多くの人々を魅了し続けています。

 役行者は、大和国葛上郡茅原(ちはら)の里の茅原寺で、誕生しました。(現在の奈良県御所市茅原吉祥草寺)父は、高賀茂氏の間賀介麻呂(まかげまろ)、母は白専女(しらとうめ)(別称:渡都岐麻呂、とときまろ)です。高賀茂氏は、古代出雲系の氏族で、始祖は大国主命の子供の「阿遅志貴高日子根命(あじしきたかひこねのみこと)」です。京都の賀茂氏(鴨氏)に繋がる系譜です。母親が、天から金色の独鈷(どっこ)が雲に乗って降りてきて、自分の口の中に入る夢を見て、忽ち懐妊したと言われています。偉大な人物は、生誕前から、それが凡人と異なっているという、お釈迦様タイプのエピソードを彷彿とさせています。

 彼は、孔雀明王と不動明王、二尊の修法を修め、葛城山、大峯山をはじめ、全国津々浦々の山岳で修行し、超人的な験力を獲得しました。彼が大峯山中の山上ケ岳で感得した、金剛蔵王大権現(こんごうざおうだいごんげん)は、吉野山金峯山寺のご本尊でも有名です。日本に散らばる「蔵王」という地名についても、概ねこれに由来しています。

前鬼(ぜんき)と後鬼(ごき)

行者堂(小仲坊境内)

 『役君形成記(秀高)』の「第五悪鬼随逐の事」には、「前鬼」、「後鬼」に関するエピソードが、伝えられています。奈良県良県の生駒山(いこまさん)に夫婦の鬼(夫:赤眼しゃくがん、妻:黄口おうく)が住み、数えきれないほどの人々を殺害していました。この二人の鬼の間には、鬼一、鬼次、鬼助、鬼虎、鬼彦の五人の子どもがおりました。

 あるとき、役行者は、夫婦の鬼を戒め、呪力で動けないようにし、鬼たちを改心させました。そして、不動明王の四句偈(しくのげ)を授けました。夫婦の鬼は、四句偈(しくのげ)の功徳により、行者の召使いとなりました。夫婦鬼は名前を改め、夫を「前鬼(ぜんき)」、妻を「後鬼(ごき)」と、名付けました。常に役行者の前を歩いたのが、手に斧を持った赤鬼の「前鬼」、後ろを歩いたのが水瓶を持った青鬼の「後鬼」と、言われています。(「後鬼」の子孫は、奈良県天川村洞川です)

 この他にも、役行者が鬼の子供である鬼彦を捕まえて、鉢に隠したため、夫婦の鬼が改心するというバージョン等、各々の伝承によって、微妙な違いが存在します。これと同様に、「前鬼」、「後鬼」の名前についても、役行者の五大弟子である義覚(ぎかく)、義賢(ぎけん)に比定されたりと、微妙な違いが存在します。

小仲坊表札(前鬼山)
小仲坊表札

前鬼山小仲坊(おなかぼう)

五鬼熊行者坊
五鬼熊家行者坊住居跡(前鬼山)

 この前鬼山では、鬼夫婦の五人の子孫達が、それぞれ宿坊を営んでおりました。五鬼熊(ごきぐま)、五鬼童(ごきどう)、五鬼上(ごきじょう)、五鬼継(ごきつぐ)、五鬼助(ごきじょ)の五家です。それぞれ行者坊、不動坊、中ノ坊、森本坊、小仲坊を営み、修験者のためにも、それを代々受け継いでおりました。しかし、明治5年の「修験道廃止令」により、修験者が激減したこともあって、残念なことに、小仲坊(おなかぼう)を残して、前鬼山から4家は撤退することとなりました。4家の足跡は、跡地として残っております。

 現在は61代目ご当主、五鬼助義之氏(本山修験宗住職)が、1300年間の「聖地」と法灯を守られています。鬼の子孫とのことなのですが、正反対に仏そのもののような方で、週末にはこの地にご家族で戻られて、宿泊者のお世話をされています。行者堂では、護摩焚きの修法がなされることもあり、役行者が偲ばれます。

前鬼山(小仲坊)へのアクセス

 前鬼山小仲坊の情報を記載しておきます。2023年末に下北山村内で崩落事故がありました。国道169号線においては、現在、通行可能な状況となっております。但し、台風等の災害で、通行制限がなされる場合がございます。お越しの際には、奈良県吉野土木事務所工務第二課(TEL:07468-2-0098)へ道路状況ご確認の上、お気を付けてお越し下さい。

住所奈良県下北山村前鬼30
交通・国道169号線に、前鬼登山口の看板あり
・奈良交通「前鬼口」バス停より徒歩約3時間10分(12キロ)
・国道169号線「前鬼前」バス停から、林道(舗装)を進み、車停めゲート(お車を、6台ほど駐車できます)まで約20分。(10キロ)そこから、土道を歩き徒歩約40分。(2キロ)
*現在は昨年の崩落事故のため、土道は通行不可で、林道(舗装)のみ通行可能
ご連絡先072-834-1074(平日)07468-5-2210(前鬼)
営業日土・日・祝日・連休・年末年始
宿泊料金・1泊2食付き(8,000円)*要予約
・素泊まり(4,000円)無人宿泊所
・修行以外の一般の方のご宿泊も可能です
その他・お弁当(500円より)*要予約
携帯電話は圏外です。(公衆電話があります)
・トイレ完備、簡易水道あり
・営業時間のみ自家発電(21時消灯)
・近隣にお店はありません

まとめ

 この「聖地」は修行の地です。古来より、多くの修験者がここで宿を取り、入峯修行に取り組んで参りました。修験者も自然のど真ん中で、自分と向き合い、これまでのことや、これからのことについて、真の自分と対話していたのだと思います。この伝統は現在も変わらず、この聖地に息づいております。

 携帯電話も圏外で、消灯されると、静けさの中、星空だけの世界になります。他に邪魔するものもなく、自然に抱かれながら、未知なる自分自身と出会うことが出来ます。特別な場所だからこそ、許される体験。勿論、キャリア形成を俯瞰することにも、とても役立ちます。下記は「日本の滝100選」にも選ばれています、「不動七重の滝」(ふどうななえのたき)の動画です。前鬼山へ向かう途中にあります。動画では、実物よりは迫力は劣りますが、このエネルギー感を、少しでもご堪能頂ければ幸いです。

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