山上ヶ岳と大峯山寺/修験道の聖地・大峯山・湧出岩・龍の口

 「大峯山」(おおみねさん)は紀伊半島の中央部を占める山系の総称で、「大峯山」という個別の山があるわけではありません。「山上ヶ岳」(さんじょうがたけ、1,719m)を「大峯山」と呼ぶこともあります。「紀伊山地の霊場と参詣道」は、ここを中心とする世界遺産で、2004年に登録されました。吉野山、金峯山(きんぷせん)、大峯山は、地元の方でも、解釈がまちまちです。一般的には、「青根ヶ峰」(あおねがみね)までを「吉野山」、それ以南を「大峯山」、吉野山から、山上ヶ岳までを、金峯山(きんぷせん)と呼んでいます。因みに最高峰は「八経ヶ岳」(はっきょうがたけ1,915m)となっています。

 山上ヶ岳(さんじょうがたけ)は、奈良県吉野郡天川村にあります。役行者が蔵王権現を感得(かんとく)したとされる神仏出現の霊山です。「大峯奥駆道」(おおみねおくがけみち)の中枢を担い、神仏が宿ると言われる七十五の靡(なびき)の中で六十九番目に位置しています。現在でも、入峯期間が毎年5月3日(戸開式)から9月23日(戸閉式)と決められており、この期間以外は入山することができません。また、伝統的に女人禁制を継続しているという、特徴もあります。現在も「修行の山」として、「修験道の聖地」を体現しています。

大峯山寺(おおみねさんじ)

大峯山寺山門(妙覚門)
大峯山寺山門(妙覚門)

 修行の最終段階である「妙覚門」(大峯山寺山門)を潜り抜けると、大峯山寺はもうすぐです。山頂の「湧出岩」から出現された蔵王権現様のお姿を、山桜に刻んでお祀りしたのが、「山上の蔵王堂」である大峯山寺(奈良県天川村)の発祥です。日本一高所にある重要文化財です。(山下の蔵王堂は、吉野山の金峯山寺)大峯山寺は、5つの護持院(櫻本坊、竹林院、東南院、喜蔵院、龍泉寺の5つの寺院)が交代で管理しています。大峯山寺の少し手前には、これらの護持院の宿坊があり、修行者の疲れを癒してくれます。

 神聖不可侵、龍の口(たつのくち)

大峯山寺
大峯山寺(山上蔵王堂)

 蔵王権現様がお立ちになられた場所が、大峯山寺(山上蔵王堂)の内々陣にあります。そこは、「龍の口」(たつのくち)と呼ばれており、誰も入ることは出来ません。この「龍の口」を覆うように、大峯山寺は建てられているのです。改築工事の際にも、ここだけは手を入れていないそうです。大峯山系全体が「修験道の聖地」なのですが、更にこの場所は現在も禁足地になっており、「聖地中の聖地」となっております。「龍の口」は、護持院の一つである龍泉寺にもあります。龍泉寺の方は龍神様なので「龍の口」というネーミング通りで納得なのですが、大峯山寺の方も龍神様(もしくは弁天様)に繋がりがあるのかも知れません。

藤原道長の痕跡/『紺紙金字経』(こんしきんじきょう)

 大峯山寺は、古来からの信仰を反映して、数々の貴重な出土品が存在することでも知られています。「山の正倉院」とも、言われています。1985年出土の純金菩薩坐像、純金阿弥陀如来坐像が有名です。

 元禄四年(1691年)、山上蔵王堂(大峯山寺)の改築工事に際して、様々な出土品が見つかりました。吉野山の金峯山寺には、その出土品が残されておりました。この中の『紺紙金字経』(こんしきんじきょう)は、藤原道長直筆のものであり、明治時代以降、その所在が不明となっていましたが、最近再発見され、奈良国立博物館内文化財保存修理所に委託され、保存週修理がなされていました。

 令和六年三月十五日の文化審議会において、『紺紙金字経』(こんしきんじきょう)は、国宝とされました。同じ藤原道長直筆の品で、既に国宝となっている『藤原道長金銅経筒』(36.4cm、金峯神社蔵)と関連するものです。藤原道長一行が、山上ケ岳を訪れたのが「寛弘(かんこう)四年八月十一日」と、彼の日記である『御堂関白記』(みどうかんぱくき)記されています。この年は西暦1007年のことであり、「険峻な山岳地帯を貴族である摂関家がどのように登山したのか?」、とても不思議に思えます。摂関家のトップが参詣登山するという事実が、山上ヶ岳(さんじょうがたけ)が、当時から物凄い「霊山」であったということを示しています。

蔵王権現出現地、湧出岩(ゆうしゅついわ)

湧出岩(山上ヶ岳)
湧出岩(ゆうしゅついわ)

 山上ヶ岳山頂は、役行者が感得(かんとく)した蔵王権現が盤石(ばんじゃく)を割って湧出したとされる「聖地」です。山頂の一等三角点の間近には、「湧出岩」(ゆうしゅついわ)が残されています。神道でいう「磐座」(いわくら)に当たります。「修験道」は、神道(特に山岳信仰)に仏教が混交したものであり、現在に神仏習合(しんんぶつしゅうごう)を、伝えています。役行者の時代には、まだ本地垂迹(ほんじすいじゃく)の思想が芽生えてはいなかったのですが、その先取りになっています。

大峯山寺へのアクセス情報

 山上ヶ岳へのルートは、複数あります。その中でもわかりやすいルートに絞って、ご紹介させて頂きます。

(公共交通機関)

〇大阪方面より
・近畿日本鉄道 南大阪線阿倍野橋駅から、吉野線下市口駅まで 約1時間(特急使用)
・奈良交通バス 下市口駅から洞川温泉まで 約70分

〇京都方面より
・近畿日本鉄道 京都線近鉄京都駅から、橿原線橿原神宮前駅(乗り換え) 吉野線下市口駅まで 約1時間20分(特急使用)
・奈良交通バス 下市口駅から洞川温泉まで 約70分
→下記(徒歩)の項目へ

(自動車)

〇大阪方面より
・大阪市内→松原JCT(阪神高速14号松原線)→三原JCT(阪和道)→葛城IC(南阪奈道路)→小房(おふさ)右折(大和高田バイパス)→土田(つちだ)右折(国道169号線から370号線へ)→岡崎左折(国道370号線から309号線へ)→川合左折(国道309号線)→森田商店左折(県道21号線洞川温泉方面)→大橋茶屋駐車場(県道21号線すずかけの道)

〇京都方面より
・京都市内(国道24号線)→城陽IC(京奈和自動車道)→木津IC(奈良バイパス)→郡山(橿原バイパス)→橿原北IC直進(国道24号線)→新堂ランプ左折→雲梯(うなて)直進(大和高田バイパス)→お房右折(大和高田バイパス)→土田(つちだ)右折(国道169号線から370号線へ)→岡崎左折(国道370号線から309号線へ)→川合左折(国道309号線)→森田商店左折(県道21号線洞川温泉方面)→大橋茶屋駐車場(県道21号線すずかけの道)

(徒歩)

女人結界

・奈良交通バス 洞川温泉(約30分)→母公堂(約25分)→大橋茶屋(約1分)→清浄大橋(大峯大橋)(約30分)→女人結界門経由→一本松茶屋(約20分)→お助け水(約20分)→泥辻茶屋(約10分)→陀羅尼助茶屋(約5分)→松清茶屋(約1分)→(分岐点で往路は左の行者道を通行、復路は右の平成新道を通行)→油こぼしの鎖場→鐘掛岩→お亀石→等覚門→宿坊→妙覚門→大峯山寺→お花畑、山頂、湧出岩

・大橋茶屋の自販機で、「水」等の補給を!
・岩場等を進むため、滑らない靴のご準備を!
・急な天候の変化に備え、雨具等のご準備を

(駐車場)

〇大橋茶屋(看板に料金表あり)
・自家用車(1日、1,000円)
・マイクロバス(1日 2,000円)
*大橋茶屋営業中は直接支払い、営業時間外はポストへ封筒にナンバー記載し、お金を投函

山上ヶ岳周辺地図

まとめ

 修験道の「聖地中の聖地」です。眺望の良い山頂で、自然のエネルギーを受け取りながら、じっくり自己観察をしてみることができると思います。先達(せんだつ)の方がいらっしゃるなら、ご真言や護摩行、法螺などで、清浄感が高まってくるでしょう。日帰りの場合は、下山の時間もありますので、ゆっくり過ごす時間は限られてはおりますが、新たな気づきが湧出されることでしょう。あなたの中にある権現様が、見出せるかもしれませんね。

 天川村や吉野山では、毎年、修験体験の企画もされておりますので、これに参加されるのも、良いでしょう。(女人禁制につき、残念ながら、女性の参加はできませんが、場所によっては、できるところも御座います。上記リンクから、ご確認下さい。)

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